夏バテとは、高温多湿な状態に対応できずに起こる、だるさや倦怠感、胃腸の不調、冷えやむくみ、肩や首のこりなど様々な症状が現れる体の不調のこと。リンナイ株式会社の調査では、夏バテを経験したことのある人の割合は約8割にも上ります。夏バテは熱中症とは異なり急激に体調が悪化することはありません。しかし、対処せずに放置してしまうとなかなか回復できなくなってしまいます。夏バテの原因や症状、対処法などを知り、夏バテ対策を行いましょう。
出典:リンナイ調べ
医学博士、日本内科学会総合内科専門医、日本神経学会神経内科専門医、日本頭痛学会頭痛専門医、日本脳卒中学会脳卒中専門医。東邦大学医学部卒業後、東邦大学附属医療センター大森病院、済生会横浜市東部病院を経て、2013年8月にせたがや内科・神経内科クリニックを開設し、「自律神経失調症外来」「気象病・天気病外来」などの特殊外来を立ち上げる。著書に『低気圧不調が和らぐヒントとセルフケア 気象病ハンドブック』(誠文堂新光社)、『不調がデフォな私たちの背骨リセット』(主婦と生活社)、監修に『面白いほどわかる自律神経の新常識』『毎日がラクになる! 自律神経が整う本』(宝島社)がある。
夏バテを招く環境や生活習慣
夏バテの原因には、日本の夏特有の気候に加え、体の機能を調節する自律神経を乱したり、疲労を蓄積してしまったりする生活習慣も挙げられます。まずは、ご自身の生活の中に見直すべき点がないか確認してみましょう。
●高温多湿の気候と、冷房のよく利いた環境
夏の暑さや湿度の高さは、体の負担となり不調を招きます。そんな暑さをしのぐために冷房は欠かせませんが、そこにも夏バテのリスクが。冷房の利いた涼しい室内と蒸し暑い屋外という寒暖差が大きな環境を行き来すると、体温調節に必要な発汗や血管の収縮・拡張が繰り返し行われることになります。その結果、汗や血管をコントロールする自律神経が乱れ、疲れやだるさといった夏バテの症状が出やすくなります。
●気圧や生活リズムの変化
気圧が変化すると体を適応させるために自律神経が働きますが、台風やゲリラ豪雨では気圧が急激に変化するため、自律神経が乱れ、頭痛やめまいなどを起こすことがあります。また、夏休みに生活のリズムが変化することも、自律神経の乱れを招き、夏バテの原因となります。
●体の冷え
夏も体の冷えには注意が必要です。冷房の利かせ過ぎや冷たい物の摂り過ぎで胃腸が冷えると、腸と相関関係のある脳に影響し、脳でコントロールされる自律神経の乱れにつながりやすくなり、夏バテの原因となります。自律神経の乱れで胃腸の働きにかかわる副交感神経の働きが低下すると、食欲低下や消化不良、便秘、下痢、吐き気などを起こすことがあり、逆に副交感神経が活発になり過ぎると、胃酸が過剰に分泌されて胃を傷めてしまうこともあります。
また、冷え症の人は、体を温める力が弱く汗もかきにくいため、体温調節で内臓を温めたり、汗をかいて体の余分な熱を放出したりすることでエネルギーを消耗しやすい傾向にあります。体の冷えは血行不良を招き、首や肩のこり、むくみの原因にもなります。
●汗のかき過ぎ
適度に汗をかくことは夏バテ対策に有効ですが、汗をかき過ぎると脱水状態になるだけでなく、水分と共にナトリウムやマグネシウム、カルシウムといったイオン(電解質)も失われます。これらは、筋肉や神経を正常に働かせるために欠かせないものです。
●睡眠不足
猛暑で寝苦しい夜は、十分に眠れないこともあるでしょう。本来睡眠中に回復すべき自律神経がリカバリーできず、さらに寝つきが悪くなったり睡眠の質が低下したりして、疲労の蓄積、免疫力や体力の低下につながってしまいます。
●強い紫外線
紫外線は、体の成長や丈夫な骨をつくるのに大切なものですが、夏の強い紫外線は刺激が強く、浴び過ぎると疲れの原因に。曇りの日も油断は禁物です。
夏バテのリスクをチェック!
次の項目に多く当てはまる人は夏バテのリスクが高いと考えられます。
・汗をかきにくい
・空調の利いた場所にいる時間が長い
・冷たい飲み物や食べ物を摂ることが多い
・胃腸の不調がある
・睡眠時間を6時間(※)以上とれていない
・朝起きた時に調子が何となく悪い
・1日30分程度の軽い運動をする習慣がない
・生活リズムが不規則である
・入浴はシャワーで済ますことが多い
(※)人によって適した睡眠時間は異なります。
年齢や性別、生活習慣によって夏バテの原因は異なる?
年齢や性別などによって、異なる夏バテの原因もあります。
●子ども
子どもは汗を出す汗腺(かんせん)が未発達なため、体温調節がうまくできない場合があり、夏バテを起こしやすいと言えます。
●シニア
高齢になると、暑さやのどの渇きを感じにくくなっていたり、自律神経の働きが低下して発汗や消化などの働きが低下している場合があり、気がつかないうちに夏バテになっていることがあります。
●20~50代の女性
20~50代の女性は筋肉量が少なく、運動習慣もないという人が多くみられます。代謝が低いと十分なエネルギーがつくれず、疲労が回復しにくくなります。また、夏バテの原因にもなる冷え症の人も多いです。
●オフィスワーカー
オフィスなどの1日中一定の温度が保たれた室内で、あまり汗もかかず、動かないで過ごしていると、自律神経の働きが低下してしまう場合があります。
夏バテの症状は人によって様々で、だるさや疲れやすさ、冷え、胃腸の不調が多く見られますが、それ以外にも、頭痛、めまい、首や肩のこり、寝つきが悪い、気分の落ち込み、やる気が出ないなどといった症状が現れます。放置していると不調が積み重なり、秋まで不調が続くことにもなりかねません。
<夏バテの主な症状>
・だるさや疲れやすさ……全身が何となくだるく、疲れが抜けない。前日の疲れがリセットできておらず、朝、起きた時からだるさを感じる。
・冷え……四肢末端が冷えたり、全身が冷えたり、内臓が冷えたりする。夏の冷えは、腸の不調へとつながる。
・胃腸の不調……冷えが原因で起こる。食事から栄養をしっかり吸収できないのに加え、食欲が湧かなかったり、胃もたれや胸焼け、便秘、下痢などを起こしたりする。
夏バテと症状が似ている「低血圧」
だるさや疲れやすさ、食欲不振、頭痛といった症状は、低血圧でも起こるものです。低血圧は女性に多く、体質のためと考えられることがほとんどですが、自律神経の乱れや栄養不足、病気が原因の場合もあります。「夏バテかと思ったら不調の原因は低血圧だった」という人もいますが、低血圧の人は夏バテを起こしやすい傾向があり、体温調節のため汗をかいたり血管が拡張したりすることも血圧低下につながります。日頃から生活リズムを整え、入浴や適度な運動などで血流を促すなど、体調管理を心がけるとよいでしょう。
夏バテは、まず自分の体調がどのような状態かを把握し、適切に対処することが大切です。夏バテだから体を冷やそうと考える人もいますが、熱中症と違い夏バテには逆効果。次に紹介する対処法を覚えておくとよいでしょう。夏バテなのか熱中症なのか判断が難しい場合は、大正健康ナビ「熱中症症状チェック」で確認してみてください。
●入浴、マッサージで体を温める
不調を感じたら、入浴やマッサージなどで体を温めるとよいでしょう。ただし、高過ぎる湯温で入浴すると、交感神経が活発に働いてしまい、リラックスできません。湯温は41℃以下にし、体を温め過ぎないようにしてください。サウナで体を温めるという方法が有効かどうかは、人によります。体に合わない場合は無理をしないようにしましょう。また、マッサージをするなら、様々な神経やツボが集まっている耳がおすすめです。痛くない程度の力で引っ張ったり回したりすると、リンパや血液の流れを促し、頭痛の解消や自律神経を整えるのに役立ちます。
●食事の内容に気をつける
夏は、栄養バランスのよい食事を心がけながら、不足しがちな水分やミネラル、体をつくるタンパク質、疲労回復に役立つビタミンなどの摂取も意識しましょう。胃腸の不調を感じている場合は、刺激の強い食べ物は控え、消化によいものを食べたり食事の量を減らしたりして、胃腸を休めるとよいでしょう。
●心身を休める
睡眠などで心身を休めると、疲労がリセットされ、ストレスも軽減できます。日中もできる手軽な方法に深呼吸があります。深い呼吸を意識して行うと、副交感神経の働きが活発になり、自律神経が整いやすくなります。ポイントは息をしっかり吐き切ること。息を吐き切れば、次の息も吸い込みやすくなります。
<おすすめの深呼吸の方法>
①3秒ほどかけて鼻から軽く息を吸い込む。
②時間をかけて口からゆっくりと息を吐き切る。
●水分を摂取する
人間の体は寝ている時も汗をかき、水分を失っています。体内の水分不足はだるさや頭痛などの原因になるので、水分はこまめに摂るようにしましょう。体液には一定の塩分が必要なので、水分を摂取する場合は汗で失われる塩分も一緒に摂ってください。なお、利尿作用や血管の収縮・拡張作用があるカフェインやアルコールは、不調がある時は控えましょう。
●市販の胃腸薬や頭痛薬を活用する
胃腸の調子が悪い時や頭痛がある時は、無理をせず、市販の胃腸薬や整腸薬、頭痛薬の力を借りましょう。ただし、頭痛薬の過剰摂取は「薬物乱用頭痛」を招く恐れがあります。 月に10回以上市販薬をのんでいるという人、効果が感じられないという人は医療機関を受診しましょう。
●医師に相談する
休日に体を休めても体調が改善せず、日常生活に支障を来している場合は、迷わず内科を受診しましょう。医師が症状を確認し、適切な治療を受けることができます。
夏バテ対策は夏バテにならない体づくりから。気づいたら早めに取り組むとよいでしょう。夏バテ対策について幾つかご紹介します。無理をせず、できることから始めましょう。
●夏バテ対策に暑熱順化に取り組む
暑熱順化とは、暑さに体が慣れること。暑くなるのに合わせて、汗をかきやすく熱を逃しやすい体をつくっていきましょう。
<暑熱順化の方法>
・週に3、4回、涼しい時間帯にウォーキングなど軽い有酸素運動を30分程度行い、汗をかきやすい体をつくる。運動するのが難しい場合は、代わりに38~40℃位のお湯に10~15分間、首までしっかり浸かる入浴をしてもよい。
・水分は一度に摂取しても体に吸収されにくい。日頃からこまめな水分摂取を習慣化しておくとよい。
・体内で水分を多く蓄えるのは筋肉。適度な運動や、運動後のタンパク質の摂取で筋肉量を維持しておく。
●質の高い睡眠で夏バテ対策
質の高い睡眠は疲労回復や自律神経の調整に不可欠です。
大切なのは入眠からの90分。その間に深く眠れるように次の5つのコツを参考に生活習慣を見直し、6時間以上を目安に十分な睡眠時間を確保しましょう。
<質の高い睡眠を叶えるコツ>
・神経を刺激するスマートフォンなどの電子機器は、就寝の30分~1時間前から触らず、ベッドに持ち込まない。
・就寝中は体の冷えに気づきにくいもの。そのため、寝具などを活用し、就寝中の体にエアコンや扇風機の風を直接当てないようにする。また、寝具は気温や湿度に合わせた物を使い、寝心地のよい環境を整えておく。寝ている間に疲労回復を促すリカバリーウェアを活用してもよい。
・太陽の光を浴びて活動すると、眠気を招くメラトニンに変化するセロトニンの分泌が促される。セロトニンは分泌から約13時間後にメラトニンに変化するため、午前中の活動がおすすめ。
・38~40℃程度のお湯での全身浴を就寝の1時間半から2時間前までに済ませると、内臓など体の深い部分の体温(深部体温)が下がるのと共に寝つきやすくなる。
・就寝前のストレッチで深部体温を上げるのもよい。
就寝前のストレッチはこちらを参考にしてみてください。
睡眠の質を上げる!1分で快眠ストレッチ動画
●疲労回復や腸内環境を整える栄養素・食品を積極的に摂る
夏バテ対策には栄養バランスのよい食事を心がけた上で、疲労回復に役立つビタミンや、腸内環境を整える発酵食品を意識的に摂るとよいでしょう。食事では十分に摂取できない場合は、サプリメントやドリンク剤も補助として活用してみてください。ただし、肝機能にトラブルがある場合などはサプリメントの摂取に注意が必要な場合もあります。持病のある人は事前に医師や薬剤師に相談しましょう。
<ビタミンB群>
・ビタミンB1……筋肉や心臓、脳のエネルギー源となる糖質を代謝するのを助け、疲れやだるさの予防・回復に必要。
・ビタミンB6・ビタミンB12……神経の働きに関与し、ストレスをケアして心を落ち着かせたり、肩こりなどを緩和させたりする。
<ビタミンC>
ストレスへの対処のために分泌される「抗ストレスホルモン」の生成に使われる。
<クエン酸>
体内の疲労物質の分解を促進したり、ミネラルの吸収や新陳代謝を高めたりする。酸味が食欲増進につながることも。
<タンパク質>
筋肉や神経伝達物質、ホルモンなどの原料になる。不足すると筋肉量が落ち、代謝や体力が低下する。
<発酵食品>
腸内環境を整えて自律神経が整うのをサポートする。
●エアコンを有効に活用する
気温が高い時は、夏バテ対策で迷わず冷房を使用しましょう。湿度が70~80%まで高くなると疲れや熱中症のリスクも高まるので、必要に応じて除湿機能も使ってください。また、体の冷え過ぎや乾燥を防ぐため、サーキュレーターも併用してエアコンの風を体に直接当てないようにするとよいでしょう。汗をかいたまま冷房の利いた場所にいると体が冷えてしまいますので、かいた汗はこまめに拭き取るようにしてください。
屋内と屋外との寒暖差を和らげたり、冷房が強過ぎる時に対処したりするために、羽織る物やひざ掛けなどを用意しておくのもおすすめします。
●座りっぱなしにならないようにする
神経は、頭から首を通って全身に伝わっています。パソコンやスマートフォンを使う時の前かがみの姿勢は、首に負担がかかり、自律神経を乱してしまうことも。仕事や勉強をしている時は、座りっぱなしになることを避け、1時間に1回は歩いたり、画面から目を離したり、ストレッチなどの軽い運動をしたりして姿勢をリセットしましょう。
<おすすめの首のストレッチ>
①正面を向き、あごに人差し指を当てる。
②あごを上や下に向けることなく、指に力を入れて後頭部の方向に真っすぐ押す。
夏バテは改善しやすい!
「暑さが和らげばそのうち回復するだろう」と放置されがちな夏バテですが、ご紹介した生活習慣の見直しなど、簡単な方法で改善することができます。暑い夏を健やかに乗り切るためにも、自分の体調を見極め、不調改善にぜひ取り組んでいきましょう。