腸のエイジングケア
ストレスの多い時代を健康に生き抜く術を、「菌活」の視点からご紹介します。便秘で悩んでいる人や最近ストレスに弱くなったという人は必読です。
腸内細菌のバランスの年齢変化
腸内細菌のバランスは年齢と共に変化しやすく、ウェルシュ菌などの悪玉菌が増える一方、ビフィズス菌は減少傾向に。ただし、腸内環境は食生活をはじめとする生活習慣の影響を大きく受けるので、個人差が大きいのも事実です。ストレスも腸内環境を乱す要因となります。腸と脳は、神経やホルモンなどで双方向にやりとりをしており(腸脳相関)、心の健康が乱れると腸内環境も乱れ、腸内環境が乱れると心の健康も乱れるとされています。
様々な菌が雑多にいる「多様性」のある腸内環境を目指そう
腸内細菌のベストバランスとして一般的によく言われているのが、「善玉菌2:悪玉菌1:日和見菌7」という割合です。このように悪玉菌よりは善玉菌優勢のほうがよいのは確かなのですが、ある研究で健康な人の腸内環境を調べたところ、彼らに唯一共通していたのは、この「2:1:7」のバランスではなく、腸内細菌の「多様性」でした。善玉菌のビフィズス菌が多かったとしても、菌の多様性がなければよい腸内環境とはいえない、ということになります。大腸菌は悪玉菌に含まれますが、腸内細菌が多様な環境では、善玉菌をサポートするよい働きをすることが分かっています。
腸内細菌の多様性が乱れると、生活習慣病をはじめ、大腸がん、炎症性の腸疾患、アレルギー性疾患、精神疾患など様々な疾患のリスクが高まることが分かっています。この腸内細菌の多様性を決める大事な時期が、幼少期。この時期に腸に定着する菌の種類が決まってしまいます。では、大人になってから腸活するのでは遅いかというと、そうではありません。菌の種類を増やすことはできなくても、有用菌の減少を食い止めたり、自分がすでに持っている有用菌の量を増やしたりすることはできます。疾患リスクを抑えるためにも、日々コツコツと「菌活」することが大切です。
自分の腸内環境を詳しく知りたい時は「腸内フローラ」検査を
腸内環境の良し悪しは、便通や便の状態で分かります。腸内環境が乱れていると、便秘や下痢を繰り返したりおならが悪臭化し、便はコロコロ便や緩い便になりやすいです。でも今は腸内フローラ検査で腸内細菌の種類やバランスなどが調べられ、多様性の有無も分かります。検査によって自分に足りない菌や、減らしたい菌が分かるので、自分に合った「菌活」が可能に。例えば、乳酸菌の割合が0%という検査結果が出る人もいます。こういう人はストレス耐性が低い可能性があり、ストレスケアのためにも、乳酸菌由来の発酵食品や乳酸菌のサプリメントで毎日菌を補うという具体的な対策が見えてきます。
いろいろな食品を食べることが、多様性のある腸内環境への近道
腸内環境を整える基本は、善玉菌そのものを補う発酵食品などの「プロバイオティクス食品」と、善玉菌のエサになる食物繊維などの「プレバイオティクス食品」を毎日摂ることです。その上で、腸内環境の多様性を高めるためには、次のポイントも押さえておきましょう。
ポイントの1つめは、様々な食品を食べること。腸活というとヨーグルトを食べていればよいと思っている人もいるかもしれませんが、毎日決まった物を食べているだけでは菌の多様性は高まりません。ヨーグルト以外にも漬物や納豆など、多様な菌で発酵している発酵食品を摂るようにしましょう。
2つめのポイントが、土で育った農作物を食べること。りんご1個には約1億もの土壌菌が付着しているとされます。土壌菌は、健康な土で育った農作物を食べたり、土に触れたりすることで口から腸内に入り、近年では土壌菌の一種にストレス耐性を高める働きがあることが分かり注目されています。反対に、加工食品ばかりの食生活では、栄養素が限られ、多様な菌を取り入れることができません。日々の食事で、新鮮な農作物や発酵食品などを積極的に摂り、自分の腸内にいる菌を育てていきましょう。
内科医・認定産業医
桐村里紗先生(きりむら・りさ)
愛媛大学医学部医学科卒業。tenrai 株式会社代表取締役医師。治療よりも予防を重視し、「ホンマでっか!?TV」やWebメディアにてヘルスケア情報を発信。新著『腸と森の「土」を育てる~微生物が健康にする人と自然』(光文社)8月18日発売。