口唇炎とは、唇全体に炎症が起こり、乾燥、赤みや腫れ、皮むけ、ひび割れなどが生じる病気です。日常的に口紅を使う女性に多い傾向がある他、アトピーやアレルギーのある人、唇をなめる癖がある人、口呼吸をする人などもリスクが高いので注意しましょう。
1982年東京女子医科大学卒業後、同大学皮膚科に入局。84年よりスイス・ジュネーブ大学皮膚科に留学。その後、東京女子医科大学皮膚科助教授、同附属女性生涯健康センター教授を経て、現職。医学博士。専門はアトピー性皮膚炎、皮膚科心身医学。著書に『皮膚科専門医が教える やってはいけないスキンケア』(草思社)など。
唇は角質層(角層:皮膚の最も表面にある層)がとても薄く、皮脂腺や汗腺がなく皮膚を守る皮脂膜もほとんどありません。そのため、刺激に弱く乾燥しがちで、特に空気が乾燥する秋から冬にかけては、口唇炎が起こりやすくなります。
●主な口唇炎の種類とその原因
・接触口唇炎
接触口唇炎は、食べ物や化粧品、歯磨き粉、歯科金属などが唇に触れ、アレルギー反応や刺激反応で炎症が起こります。
・アトピー性口唇炎
アトピー性口唇炎は、アトピー性皮膚炎の症状として起こるもので、唇の乾燥、かゆみやストレスで唇を触ったり皮をむいたりしてしまう掻破行動(そうはこうどう)、空気の乾燥などが炎症を招きます。アトピー性皮膚炎が軽い人や過去にアトピー性皮膚炎に悩まされていたという人にも起こります。
・光線性口唇炎
光線性口唇炎は、日光に当たると紫外線などの刺激で起こる口唇炎です。一般的な光過敏症と異なり、唇だけに発症し、特に日光が当たりやすい下唇に多く見られます。放置するとがんに進行するもの(前がん病変)でもあり、注意が必要です。
・肉芽腫性(にくげしゅせい)口唇炎
肉芽腫性口唇炎は、原因は明らかになっていませんが、歯周病や虫歯などの口腔内の病気、食べ物や金属のアレルギー、遺伝、クローン病などの自己免疫疾患といった、様々な要因が、複合的に関与して発症すると考えられています。
●子どもに多い「舌なめずり皮膚炎」も口唇炎の1つ
「舌なめずり皮膚炎」(なめまわし皮膚炎・舌なめ皮膚炎)は、子どもに多く、上下の唇をかむようにしてギュッと口を閉じてからパッと開いたり、口の周りをなめたりするといった癖によって、唇や口の周りの皮膚(口唇皮膚)が荒れる病気です。これも口唇炎の1種とされます。
●マスクが口唇炎を招くことも
花粉症や感染症の対策、のどのケア、業務上の制約など、様々な理由からマスクをつける機会が多い人もいるでしょう。マスクをつけている時はマスク内の湿度が高い状態ですが、マスクを外すと一気に水分が失われます。その際に角質層が薄い唇からも水分が蒸発して皮膚のバリア機能が低下し、口唇炎のリスクが高まります。加えて、マスクをしていると口呼吸になりやすいのも口唇炎の一因に。
口唇炎の原因によって症状は異なりますが、重症化すると会話や食事に影響する場合も。また、唇という目立つ場所の疾患であることから、見た目が気になったり、化粧が楽しめなくなったりする人もいます。
●主な口唇炎の症状
・接触口唇炎、アトピー性口唇炎、光線性口唇炎
接触口唇炎、アトピー性口唇炎、光線性口唇炎の症状は、唇の乾燥と、赤みや腫れ、皮むけ、ひび割れで、出血や痛みを伴う場合があります。口の周囲の皮膚に炎症が及ぶことも。アトピー性口唇炎はかゆみを伴うケースが多く見られます。
・肉芽腫性口唇炎
肉芽腫性口唇炎の症状は、唇に痛みやかゆみを伴わない腫れやむくみで、繰り返すうちに患部が硬くなり、ひび割れや出血などが生じて痛みを伴うようにもなっていきます。舌の表面の深い溝や顔面神経麻痺を併発した場合は、虫歯や鼻の病気などによって発症すると考えられているメルカーソン・ローゼンタール症候群の可能性があります。
●口唇炎と単なる唇の荒れとの見極めは?
秋から冬にかけての時期や、夏でもエアコンを使用している時などは、空気の乾燥によって唇が荒れてかさつくことも。口唇炎と唇の荒れは程度の差ともいえますが、口唇炎は炎症であり、赤みや腫れを伴う場合は単なる唇の荒れでなく口唇炎と認識するとよいでしょう。
●口唇炎と似た病気
・口角炎
口角炎は、唇全体に症状が見られる口唇炎とは異なり、口角(口の端)に赤みや腫れ、皮むけ、ひび割れなどの症状が現れます。アトピー性皮膚炎の人は口角炎も起こしやすく、カンジダ菌が口角で増殖してカンジダ性口角炎(カンジダ性口角びらん)になる場合も。
・口唇ヘルペス
口唇ヘルペスは、単純ヘルペスウイルスによる感染症です。前兆としてチクチク、ピリピリしたかゆみや、ほてりが生じます。前兆からおよそ半日以内に唇や唇周辺の皮膚の左右どちらか1カ所に赤い腫れが起こり、1〜3日後に腫れた場所に小さな水ぶくれができます。約1週間後にはかさぶたになり、数日で自然に治ります。
詳しくはこちら: 「口唇ヘルペスのケアの仕方について」
・口内炎
口内炎は、口の中や舌、唇など口腔内の粘膜(口唇粘膜)に生じる炎症の総称です。口の中の細菌や微生物のバランスの乱れ、かんでしまったことなどによる外傷、ウイルスや真菌の感染などによって起こり、腫れやただれ、潰瘍が見られます。
詳しくはこちら: 「口内炎」
・固定薬疹(こていやくしん)
固定薬疹とは、特定の薬を飲むたびに、決まった場所に赤みやかゆみなどが出る病気で、唇や周辺の皮膚に生じる場合があります。身近な市販薬や処方薬でも起こりやすく、青や灰色のような色素沈着が残りますが、服薬をやめれば消えていきます。
●病院での治療
症状がなかなか治まらない、繰り返し起こる、悪化するといった場合は、皮膚科を受診しましょう。治療の基本は、原因を特定し、避けること。それに加えて、ステロイドで炎症を抑えることです。アレルギーの場合は検査でアレルゲンを特定したり、感染症の場合は抗ウイルス薬、抗菌薬などを処方したりするなど、原因や症状に合わせた治療を行います。
●市販薬での治療
軽い乾燥程度であれば、効能・効果として口唇炎が明示された市販薬のリップクリームも有効です。抗炎症や殺菌、傷の修復、唇の血行や新陳代謝の促進など、様々な効能をもつ成分が入った物があるので、薬剤師や登録販売者に相談して症状に合った物を選び、用法・用量を守って使いましょう。
●症状がある時の注意点
唇が乾燥しているからといってついなめてしまったり、皮むけやひび割れの部分を触ってしまったりすることは、唇への刺激になり症状の悪化につながるので控えましょう。辛い物など刺激の強い食べ物や飲み物も、できるだけ口にしないように。また、症状がある時は炎症を抑えるのが最優先になるため、薬用ではないリップクリームを保湿のために塗ったり、化粧をしたりするのも避けてください。
過去に口唇炎に悩まされたことがある人や、唇が荒れやすい人は、予防のために次のようなことに留意するとよいでしょう。
<口唇炎の予防法>
① 唇の乾燥・乾燥を防ぐ
・リップクリームで保湿を行う。塗り過ぎはかえって刺激を与えてしまうこともあるので注意。
・日焼けも唇を乾燥させるので、日差しの強い季節はUVカット効果のあるリップクリームがおすすめ。
・空気の乾燥は唇の乾燥にもつながるので、秋から冬にかけての季節や、冷暖房機器を使っている時は部屋の湿度に気をつける。湿度は50%から60%を目安にするとよい。
・マスクをした時は、外した後にリップクリームを塗って唇の乾燥を防ぐ。
・唇を乾燥させる口呼吸を避けるため、鼻呼吸を意識して行う。
② 刺激を避ける
アレルギー反応で炎症が起きたことがある場合は、アレルギーのもととなる物質が唇に触れないようにする。
③ 唇や口の周りを清潔に保つ
食後に口の周りを拭いたり、歯磨きやうがいなどを行ったりして、唇を清潔に保つ。
④ 生活習慣
口を閉じ口角が下がっていることが多いと、唇や口角に汚れがたまりやすくなる場合も。よく笑い、よくしゃべることは口唇炎をはじめとする口の健康に役立つ。
乾燥などの一時的な刺激によって起こったものや、症状が軽い場合は、数日から2週間以内に自然に治ることがあります。ただし、その場合も保湿を行い、刺激を与えないようにするなどの対処は必要です。症状がなかなか治まらなかったり、繰り返したり、悪化したりするといった場合は皮膚科に相談しましょう。
口唇ヘルペスだと思って受診したら口唇炎だった、という人も多く見られます。どちらも繰り返すことのある病気ですが、治療法が異なるので、正しい診断が重要です。
接触口唇炎の原因に歯科金属がありますが、それ以外にも楽器演奏やスポーツで用いられるマウスピースの素材の、金属やゴム、木材などがアレルギーの原因になることも。
マウスピースは、装着時に唇に刺激を与えることや、口呼吸になって唇が乾燥しやすいことも口唇炎に影響します。口呼吸は睡眠時にも起こりやすいです。意外な物ではマンゴー。口の中は問題ないのですが、唇や口の周りの皮膚に腫れやかゆみが生じることがあります。マンゴーが漆科の植物であることから、漆にかぶれた経験がある人は注意してください。また、長年問題なく使ってきた化粧品や歯磨き粉で、突然アレルギーを起こすこともあります。
アトピー性口唇炎のように繰り返しやすいものもありますが、原因を特定し、それに合わせた適切な治療を行い、併せて生活習慣も見直せば2週間程度で治まることが多いです。ただし、アレルギーが原因にもかかわらずアレルゲンが避けられなかったり、唇をなめる癖がやめられなかったりするなど、口唇炎の原因を排除できないと症状の改善の遅れや再発を招くこともあります。