ビオチン
肌や髪の健康を守るビタミン
どんなビタミン?
ビオチンは水溶性ビタミンであるビタミンB群の一種で、『ビタミンB7』『ビタミンH』とも呼ばれます。『H』はドイツ語のHaut(皮膚)に由来し、ビオチンが皮膚炎を予防する成分として発見されたことから名づけられたものです。皮膚や粘膜、髪、爪の健康を維持するために大切なビタミンです。
ビオチンは、体内の糖代謝、脂肪酸の生合成、およびアミノ酸代謝にかかわるカルボキシラーゼという酵素の機能を補助する補酵素として働きます。また、医薬品としてアトピー性皮膚炎や脂漏性皮膚炎の治療に用いられることもあり、抜け毛や白髪の予防にも有効とされていますが、そのメカニズムはまだはっきり分かっていません。
過不足があるとどうなる?
ビオチンが欠乏すると、皮膚炎、脱毛、食欲不振などが起こりますが、ビオチンはいろいろな食品に含まれ、腸内細菌によっても合成されるので、通常の食生活で欠乏することはほとんどありません。しかし、偏食や慢性的なアルコール摂取、喫煙、妊娠などによりビオチンの消費量が増え、潜在的ビオチン不足に陥っている人は少なくないという指摘もあります。また、抗てんかん薬を使用している人や重度の肝障害のある人などに欠乏症が報告されている他、抗生物質を長期間服用している場合も、腸内細菌で合成されるビオチンの量が減って不足を招く可能性があります。
生卵の卵白を多量に摂ることで、ビオチン欠乏が引き起こされることも知られています。これは卵白に含まれるアビジンというタンパク質がビオチンの吸収を阻害するためで、「卵白障害」と呼ばれています。ただし、毎日、卵白を10個分摂ることを長期間継続した時のことなので、極端な食べ方をしない限り心配はありません。加熱すれば、アビジンは変性してビオチンの吸収を阻害できなくなります。
どのくらい摂ればいい?
ビオチンの食事摂取基準(目安量)は成人で男女共1日50㎍とされ、日本人の平均的な食生活ではこの量をほぼ満たしています。ただし、妊娠などでビオチンの需要が高まる可能性のある人や、肌や髪のトラブルのある人は、意識的に摂取するとよいでしょう。ビオチンが多く含まれる食品は、ナッツ類、レバー、肉類、きのこ類、大豆製品、卵などです。ビオチンは多く摂っても不要な分は排泄されるため、過剰症の心配はまずありません。
●ビオチンの1日の食事摂取基準(推奨量)
成人:50㎍(マイクログラム)
効率よく摂るポイント
ビオチンはビタミンB群の中では比較的安定したビタミンで熱や光に強いため、食品の保存法や調理法にあまりこだわる必要はありません。ただし水溶性で水に溶けやすいので、ゆでる調理ならスープなどで汁ごと摂るようにすると効率よく摂取できます。確実に補給したい場合は、栄養補助食品、栄養機能食品、サプリメントなどを利用するのもよいでしょう。肌や髪の健康のためには、ビタミンA・B2・B6、ナイアシン、パントテン酸なども重要です。肌荒れに悩んでいる人や白髪や抜け毛が気になり出した人は、これらの栄養素も併せて摂りましょう。
甲南女子大学 医療栄養学部 医療栄養学科 教授
柴田克己先生
農学博士。京都大学大学院農学研究科食品工学専攻博士課程修了。ビタミン・バイオファクター協会理事、日本トリプトファン研究会会長、文部科学省学校給食摂取基準策定に関する調査研究者協力会議委員、日本人の食事摂取基準策定委員会委員(2005年版、2010年版、2015年版、2020年版)、滋賀県食の安全・安心審議会会長などを歴任。日本ビタミン学会、日本栄養・食糧学会などに所属。滋賀県立大学名誉教授。ビタミンB研究委員会委員長。