全身に酸素を運び、元気を支えるミネラル

どんなミネラル?

鉄は健康維持に欠かすことのできない必須ミネラルの1つで、体内に3~4g含まれ、タンパク質と結合して存在します。このうち約70%は「機能鉄」と呼ばれ、赤血球のヘモグロビンの構成成分となり、肺から取り込んだ酸素を全身の組織に運搬する重要な働きをしています。一部の鉄は筋肉中にミオグロビン(ヘモグロビンに似たタンパク質)として存在し、血液中の酸素を受け取り、貯蔵しています。残りの約30%は「貯蔵鉄」と呼ばれ、肝臓や骨髄、脾臓などに蓄えられ、機能鉄が不足した時に利用されます。

また、体内に存在する鉄の約0.3%は酵素の構成成分となり、エネルギー代謝において重要な働きをしています。その一方で、鉄は体内への吸収率がきわめて低く、不足しやすい栄養素です。特に成長期の子どもや月経のある女性は、十分な摂取を心がける必要があります。

過不足があるとどうなる?

鉄が不足すると、鉄欠乏性貧血を起こします。酸素が全身に供給されないことで体が酸欠状態になり、疲れやすくなったり、頭痛や動悸、息切れ、めまい、食欲不振などの症状が現れたりします。貧血は機能鉄が不足しただけでは起こらず、機能鉄の不足を補う貯蔵鉄が底をついた時に初めて起こります。機能鉄が不足した潜在性鉄欠乏では自覚症状がないため放置されがちですが、貧血の一歩手前という人は青年期から壮年期の女性を中心にかなり多いと考えられています。また、子宮筋腫や痔、胃・十二指腸潰瘍など出血性の疾患のある人、アスピリンなどの薬剤を多用している人も鉄不足に陥りやすいので注意が必要です。成長期の子どもも筋肉や血液をつくるために多くの鉄が必要となるので、不足しないように気をつけてください。

鉄は必要以上に体内に吸収されない仕組みになっているため、通常の食事で鉄の摂り過ぎになることはまずありません。ただし、サプリメントなどで長期に過剰摂取した場合は、過剰な鉄が全身の組織に蓄積され、様々な臓器に障害が起こる可能性があります。幼児では、一度に大量の鉄を摂取すると、急性中毒により重度の臓器障害や死を招くこともあります。

どのくらい摂ればいい?

鉄の食事摂取基準は推奨量が下記のように設定され、現状では男女共にほぼこの数値を満たしています。ただし、月経のある女性は基準値が10.5〜12.0㎎(10〜14歳の女性は12.0㎎)に設定されており、これに摂取量が追いついていません。妊娠中や授乳中の人、妊娠を計画している人、成長期の子ども、食が細い高齢者、出血性疾患のある人なども鉄が不足しやすいので意識的な摂取を心がけましょう。鉄は、レバー、赤身の肉類、貝類、赤身の魚類に多く、海藻類、青菜類、卵、豆類などにも含まれています。

●鉄の1日の食事摂取基準(推奨量)

男性

18〜74歳:7.5㎎
75歳以上:7.0㎎

女性

18〜64歳(月経なし):6.5㎎
18〜49歳(月経あり):10.5㎎
50〜64歳(月経あり):11.0㎎
65歳以上:6.0㎎
妊娠初期(付加量):+2.5㎎
妊娠中期・後期(付加量):+9.5㎎
授乳婦(付加量):+2.5㎎

●耐容上限量

男性

50㎎

女性

40㎎

効率よく摂るポイント

鉄は主に肉や魚などの動物性食品に含まれる「ヘム鉄」と、野菜、海藻類、豆類などの植物性食品や卵、乳製品に含まれる「非ヘム鉄」の2種類に分類されます。この2つは体内への吸収率が異なり、ヘム鉄の吸収率は10~30%、非ヘム鉄は1〜8%とされており、大きな差があります。非ヘム鉄は良質なタンパク質やビタミンCを多く含む食品と一緒に摂取することで吸収率がアップします。

また、胃酸によっても吸収が促進されるので、ゆっくりよくかんで食べることも大切です。逆に、コーヒーや紅茶、緑茶などに含まれるタンニンは鉄の吸収を阻害してしまうので、貧血が気になる人は食中や食後に大量に摂ることは避けたほうが安心です。食事から十分に摂れない場合は、含有量に気をつけながら栄養補助食品、栄養機能食品、サプリメントなどを利用するのもよいでしょう。貧血予防のためには、赤血球の合成にかかわるビタミンB12や葉酸も一緒に摂るとより効果的です。血液検査で鉄欠乏性貧血と診断された人は、医師の指示に従って医薬品を服用し、食事の改善に取り組むようにしてください。

竹谷 豊先生

徳島大学医学部医科栄養学科臨床食管理学 教授

竹谷 豊先生

1992年徳島大学医学部栄養学科卒業、1994年徳島大学医学部・助手、1998年博士(栄養学)取得、1999年米国University of Texas Southwestern、Medical Center at Dallas,Department of Cell Biology、Postdoctoral Fellow(2001年3月まで)、2003年徳島大学医学部・助教授、2014年徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部・教授、2015年徳島大学大学院医歯薬学研究部・教授。日本ビタミン学会、日本病態栄養学会、日本腎臓学会など多数所属。