亜鉛

様々な代謝をサポートする縁の下の力もち

どんなミネラル?

亜鉛は健康維持に欠かすことのできない必須ミネラルの1つで、体内に2gほど含まれます。微量ながら大変重要な栄養素で、体内で少なくとも500種以上の酵素の構成成分となり、遺伝情報を担うDNAやRNAの合成、タンパク質の合成など様々な代謝活動をサポートしています。

主な働きとしては、細胞分裂を正常に行い、発育や新陳代謝を助ける、皮膚や髪の毛、粘膜の健康を保つ、生殖機能を維持する、味覚を維持するなどが挙げられます。細胞が活発に新陳代謝を行っている器官に特に重要とされ、子どもや胎児の成長、傷の修復にも欠かせません。また、免疫機能を正常に働かせるためにも重要で、亜鉛が不足すると、かぜなどの感染症にかかりやすくなります。しかし、吸収率は10~30%ほどとあまり高くなく、カルシウムと並んで日本人に最も不足しやすい栄養素の1つとされています。

過不足があるとどうなる?

亜鉛が不足すると、子どもでは成長障害が現れます。大人では、味覚や嗅覚の異常、貧血、皮膚炎、抜け毛、うつ、男性の性機能の低下などの他、傷が治りにくい、かぜをひきやすいといった症状が現れることもあります。現代では潜在的な亜鉛不足に陥っている人が少なくないと見られていますが、その理由として、加工食品の多食が挙げられています。加工食品には亜鉛の吸収を阻害する食品添加物が多用されているため、摂り過ぎると亜鉛不足を引き起こします。また、菜食主義や極端なダイエットも亜鉛不足の原因となります。

一方、亜鉛は多めに摂っても過剰症は起こりにくいとされていますが、サプリメントなどで長期にわたり大量に摂取すると、銅や鉄など他の栄養素の吸収阻害、貧血、胃の不快感、吐き気、免疫力の低下、腎臓障害、神経障害などが起こることがあります。一度に2,000㎎以上摂った場合は、急性中毒を起こすこともあるので注意が必要です。

どのくらい摂ればいい?

亜鉛の食事摂取基準は推奨量が下記のように設定されていますが、令和元年「国民健康・栄養調査」の結果を見ると、20歳以上の男性は1日に平均9.2㎎、女性は平均7.7㎎の摂取量となっており、不足が目立ちます。亜鉛はもともと吸収されにくく、加工食品を多用する現代の食生活では不足しやすいので、多めの摂取を心がけましょう。特に、妊娠中や授乳中の人、妊娠を計画している人、成長期の子ども、肌荒れや抜け毛が気になる人、かぜをひきやすい人、生活習慣病を予防したい人は、積極的な摂取をおすすめします。

亜鉛は牡蠣、ウナギ、スルメなどの魚介類や、レバー、牛やラムの赤身肉、そら豆、カシューナッツなどに多く含まれています。また、過剰に摂取した場合に起こり得る健康被害を考慮して、亜鉛には上限量が定められています。サプリメントなどを利用する際は、必ず摂取量を守るようにしましょう。

●亜鉛の1日の食事摂取基準(推奨量)

男性

18〜74歳:11㎎
75歳以上:10㎎

女性

18歳以上:8㎎
妊婦(付加量):+2㎎
授乳婦(付加量):+4㎎

●耐容上限量

男性

18〜29歳:40㎎
30〜64歳:45㎎
65歳以上:40㎎

女性

18〜74歳:35㎎
75歳以上:30㎎

効率よく摂るポイント

亜鉛の供給源として最も優秀なのは牡蠣です。牡蠣の可食部分には1個当たりおよそ2㎎の亜鉛が含まれているので、成人なら5~6個食べると1日に必要な量を賄うことができます。

逆に、鉄や銅などのミネラルや、玄米や豆の外皮の部分に含まれるフィチン酸、ほうれん草に含まれるシュウ酸などは、亜鉛の吸収を妨げることが知られています。神経質になる必要はありませんが、特定の食品の過剰摂取は控え、バランスよく食べるようにしましょう。食事から十分に摂れない場合は、含有量に気をつけながら栄養補助食品、栄養機能食品、サプリメントなどを利用するのもよいでしょう。

竹谷 豊先生

徳島大学医学部医科栄養学科臨床食管理学 教授

竹谷 豊先生

1992年徳島大学医学部栄養学科卒業、1994年徳島大学医学部・助手、1998年博士(栄養学)取得、1999年米国University of Texas Southwestern、Medical Center at Dallas,Department of Cell Biology、Postdoctoral Fellow(2001年3月まで)、2003年徳島大学医学部・助教授、2014年徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部・教授、2015年徳島大学大学院医歯薬学研究部・教授。日本ビタミン学会、日本病態栄養学会、日本腎臓学会など多数所属。