葉酸

造血と発育を助ける、
妊娠中に大切なビタミン

どんなビタミン?

葉酸(ようさん)は水溶性ビタミンであるビタミンB群の一種で、『ホラシン』『ビタミンM』『ビタミンB9』とも呼ばれます。葉酸は、タンパク質の合成や、細胞の遺伝情報が詰まっている核酸(DNA、RNA)の合成に補酵素として働き、体の発育を促します。そのため、葉酸が足りないとDNAやRNAの合成が障害され、細胞増殖の早い細胞、例えば成人では、造血幹細胞の機能に障害を来します。葉酸が体内で機能を発揮する補酵素に生合成されるにはビタミンB12が必要なので、葉酸とビタミンB12はセットで造血に不可欠なビタミンといえます。

過不足があるとどうなる?

葉酸が欠乏すると赤血球がつくられず、貧血(巨赤芽球性貧血)を起こします。また、一般的に入れ替わりの早い細胞に影響が出やすく、胃粘膜に潰瘍ができやすくなったり、舌炎や口内炎になったりすることもあります。胎児の正常な発育にも不可欠なため、妊娠初期には特に大切なビタミンです。胎児の先天異常として神経管閉鎖障害や脳形成不全がありますが、妊娠初期に合成葉酸である『プテロイルモノグルタミン酸』の補充により予防できることが報告されています。

水溶性のため摂り過ぎた分は排泄され、過剰症になることはまずありませんが、サプリメントなどで大量に摂取した場合、発熱、じんましん、亜鉛の吸収阻害などが起こることが知られています。

どのくらい摂ればいい?

通常の食事をしている限り葉酸が欠乏することは稀ですが、野菜を食べない極端な偏食やアルコールの大量摂取、アスピリンや経口避妊薬の服用などで欠乏しやすくなります。また、妊娠・授乳中は葉酸の必要量が増え、特に妊娠後期に増えます。葉酸の食事摂取基準は、12歳以上で男女共1日240㎍とされています。現状ではほとんどの年代でこの量を満たしていますが、20~30代の女性は不足傾向にあります。葉酸は不安定で調理による損失も大きいので、基準値を一つの目安とし、多めに摂ることを心がけましょう。特に妊娠中期および後期の人は1日240㎍を、授乳中の人は1日100㎍を通常の食事摂取基準の葉酸量に追加して摂ることが望ましいとされています。

葉酸が多く含まれる食品は、ほうれん草やブロッコリーなどの野菜、レバー、豆類、イチゴやマンゴーなどの果物です。また、妊娠初期の人や妊娠を計画している人は、胎児の神経管閉鎖障害などのリスクを低減するために、サプリメントなどから合成葉酸のプテロイルモノグルタミン酸を1日400㎍摂取することが推奨されています。なお、プテロイルモノグルタミン酸は、食事性葉酸と称されている食べ物由来の葉酸の約2倍の活性効率があります。ただし、過剰摂取による健康障害があるため耐容上限量が定められています。

●葉酸の1日の食事摂取基準(推奨量)

成人:240㎍(マイクログラム)

妊娠を計画している女性、妊娠初期の女性は合成葉酸のプテロイルモノグルタミン酸を400㎍、妊娠中期・後期の女性は食事性葉酸を+240㎍、授乳婦は食事性葉酸を+100㎍を付加する。

●耐容上限量(※)

18〜29歳:900㎍
30〜64歳:1,000㎍
65歳以上:900㎍

※耐容上限量はサプリメントなどに含まれる合成葉酸であるプテロイルモノグルタミン酸の量

効率よく摂るポイント

葉酸は熱や光に弱いため、食品は新鮮な物を選び、すぐに冷蔵庫に保存して、早めに食べるようにすると効率よく葉酸を摂取することができます。また水に溶けやすいので、汁ごと摂る調理法や、新鮮な野菜サラダ、納豆がおすすめです。確実に補給したい場合は、栄養補助食品、栄養機能食品、サプリメントなどを利用するのもよいでしょう。葉酸が体の中で十分に働くためにはビタミンB12が必須です。さらに、他のビタミンB群やビタミンCの協力も必要です。これらの栄養素もバランスよく摂るようにしましょう。

柴田克己先生

甲南女子大学 医療栄養学部 医療栄養学科 教授

柴田克己先生

農学博士。京都大学大学院農学研究科食品工学専攻博士課程修了。ビタミン・バイオファクター協会理事、日本トリプトファン研究会会長、文部科学省学校給食摂取基準策定に関する調査研究者協力会議委員、日本人の食事摂取基準策定委員会委員(2005年版、2010年版、2015年版、2020年版)、滋賀県食の安全・安心審議会会長などを歴任。日本ビタミン学会、日本栄養・食糧学会などに所属。滋賀県立大学名誉教授。ビタミンB研究委員会委員長。