ビタミンK
止血と骨の健康維持に働くビタミン
どんなビタミン?
ビタミンKは脂溶性ビタミンの1つで、主に植物の葉緑体でつくられる『ビタミンK1』と、微生物によってつくられる『ビタミンK2』があります。ビタミンK1の化学名を『フィロキノン』、ビタミンK2の化学名を『メナキノン』といいます。ビタミンKは、出血時に血液を固める血液凝固因子をつくる際に不可欠な成分で、血液凝固を助ける働きがあるため「止血のビタミン」と呼ばれますが、ふだんは血液の凝固を抑える成分の合成にも関与し、血液の凝固、凝固の抑制の両面でうまくバランスをとりながら作用しています。
またビタミンKは、骨にカルシウムが沈着するのを助けるオステオカルシンと呼ばれるタンパク質を活性化させる働きがあり、骨の健康維持に不可欠なビタミンの1つでもあります。骨の石灰化(カルシウムの骨への沈着)を促して骨を強くするためにも重要で、骨粗鬆症の予防や治療にも用いられています。
過不足があるとどうなる?
ビタミンKは納豆や緑黄色野菜などに豊富に含まれており、一部は腸内細菌によって体内でも合成されるため、通常の食生活を送っている限り欠乏することはまずありません。ただし、高齢者や肝障害のある人は腸管からのビタミンKの吸収能力が低下するため、不足しやすいと考えられています。抗生物質を長期間服用している人も、体内での合成が低下するため不足しがちです。その場合は、けがや内出血時に血が止まりにくくなったり、鼻血が出やすくなったりすることがあります。
また新生児や乳児は腸内細菌が少なく、母乳にはビタミンKが少ないため、欠乏症として新生児メレナ(消化管出血)や頭蓋内出血が起こることが知られています。現在では予防のために新生児にビタミンKシロップが投与されており、この欠乏症は稀になってきました。
ビタミンKは脂溶性ですが、過剰症の心配はほとんどありません。ただし、血栓症の治療のためにワーファリンを服用している人は、ビタミンKが薬の効果を弱めてしまうため、摂取量が制限されることがあります。
どのくらい摂ればいい?
ビタミンKの食事摂取基準(目安量)は、男女共に成人で1日に150㎍とされ、現状の日本人の食事ではこの量を満たしています。ビタミンKは多量に摂取しても健康被害が見られないことから、上限量は設定されていません。高齢者、抗生物質を服用している人、骨粗鬆症のリスクが高い閉経後の女性などは、多めに摂るように心がけましょう。
ビタミンKは納豆に多く含まれ、次いでアシタバ、かぶの葉、春菊など葉緑素を含む野菜や、ワカメや海苔などの海藻類に豊富です。
●ビタミンKの1日の食事摂取基準(推奨量)
成人:150㎍(マイクログラム)
効率よく摂るポイント
日本人にとって最も効率的なビタミンKの供給源は納豆です。納豆1パック(50g)には約250㎍のビタミンKが含まれ、1日の摂取基準量を十分にまかなうことができます。納豆には女性ホルモンと同じような働きをして骨量の減少を防ぐイソフラボンも含まれ、骨粗鬆症を予防したい女性の心強い味方といえます。
ビタミンKは脂溶性のため、油と一緒に摂ると吸収率が高まります。また、熱に比較的強く、野菜の場合は炒める、揚げるといった加熱調理でもあまり損なうことなく摂取できます。ビタミンKを確実に摂取したい場合は、栄養補助食品や栄養機能食品、サプリメントなどを利用するのもよいでしょう。骨の健康のためには、ビタミンDやカルシウム、タンパク質も十分に摂ることが大切です。
徳島大学医学部医科栄養学科臨床食管理学 教授
竹谷 豊先生
1992年徳島大学医学部栄養学科卒業、1994年徳島大学医学部・助手、1998年博士(栄養学)取得、1999年米国University of Texas Southwestern、Medical Center at Dallas,Department of Cell Biology、Postdoctoral Fellow(2001年3月まで)、2003年徳島大学医学部・助教授、2014年徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部・教授、2015年徳島大学大学院医歯薬学研究部・教授。日本ビタミン学会、日本病態栄養学会、日本腎臓学会など多数所属。