ナイアシン

体内で様々な化学反応にかかわる
“縁の下の力持ち”

どんなビタミン?

ナイアシンは、『ニコチン酸』と『ニコチンアミド』の総称です。水溶性ビタミンであるビタミンB群の一種で、『ビタミンB3』とも呼ばれます。ビタミンに分類されていますが、体内でも必須アミノ酸のトリプトファンから生合成されるので、「ビタミンは体の中でつくることができない」というビタミンの定義の1つからは外れるビタミンです。おおよその数値ですが、摂取したトリプトファンの1/60の量がナイアシンに生合成されます。例えば、タンパク質を60g摂取すると約600㎎のトリプトファンを摂取し、ナイアシンは10㎎生合成されることになります。

ナイアシンは他のビタミンB群と同様に酵素をサポートする補酵素として、糖質、タンパク質、脂質のエネルギー代謝をスムーズにしています。また、脳神経の働きを活性化する、皮膚を健康に保つ、血液の循環をよくするなど、体内で起こる様々な酵素反応に関与し、体の機能を正常に働かせるために重要な役割を果たしています。

過不足があるとどうなる?

代表的なナイアシン欠乏症として、ペラグラという疾患が知られています。ペラグラでは顔や手足に炎症が起こり、下痢や食欲不振などの消化器症状や、めまいや抑うつ、情緒不安定などの精神症状も現れます。現代の日本では通常の食事をしている限りナイアシンが欠乏することは稀ですが、慢性的にアルコールを多飲する人の中にペラグラの発症が認められています。

ナイアシンは水溶性のため摂り過ぎた分は排泄され、過剰症になることはまずありませんが、ニコチン酸をサプリメントなどで一度に大量に摂取した場合、皮膚が赤くなったり、ピリピリとしたかゆみが生じたりすることがあります。これはニコチン酸の血管拡張作用によるもので、「ニコチン酸フラッシング」と呼ばれています。ニコチンアミドにはフラッシング作用はありません。また過剰摂取による下痢や嘔吐、肝機能障害なども報告されているので、耐容上限量を守るようにしましょう。

どのくらい摂ればいい?

ナイアシンの食事摂取基準(推奨量)は、成人男性で1日13~15㎎NE、成人女性で1日10~12㎎NEです。NE(niacin equivalent)とは、ナイアシン当量という意味で、食品中のナイアシンの量にトリプトファンから体内でつくられる量を加えたものになります。しかしながら、トリプトファンから体内で生合成されるナイアシンの量は大きく変動するため、食品から摂るナイアシンだけで推奨量は摂りたいところです。基準値を一つの目安とし、多めに摂ることを心がけましょう。

ナイアシンが多く含まれる食品は、カツオ、マグロ、タラコなどの魚介類や、レバー、肉類、きのこ類、落花生などです。また、体内で合成されるナイアシンの材料となるトリプトファンの摂取も大切です。ナイアシンを多く含む食品はタンパク質含量も高いため、トリプトファンも多く摂れます。

●ナイアシンの1日の食事摂取基準(推奨量)

男性

18〜49歳:15㎎NE
50〜74歳:14㎎NE
75歳以上:13㎎NE

女性

18〜29歳:11㎎NE
30〜49歳:12㎎NE
50〜74歳:11㎎NE
75歳以上:10㎎NE

●耐容上限量(※)

男性

18〜29歳:300(80)㎎
30〜64歳:350(85)㎎
65歳以上:300(80)㎎

女性

18〜74歳:250(65)㎎
75歳以上:250(60)㎎

※耐容上限量はニコチンアミドの量、( )内はニコチン酸の量

効率よく摂るポイント

ナイアシンとトリプトファンの両方を豊富に含む魚介類や肉類を積極的に摂りましょう。ナイアシンは水に溶けやすい一方、熱や光に強く、酸化しにくいため、保存や調理による損失をあまり気にする必要はありません。確実に補給したい場合は、栄養補助食品、栄養機能食品、サプリメントなどを利用するのもよいでしょう。

柴田克己先生

甲南女子大学 医療栄養学部 医療栄養学科 教授

柴田克己先生

農学博士。京都大学大学院農学研究科食品工学専攻博士課程修了。ビタミン・バイオファクター協会理事、日本トリプトファン研究会会長、文部科学省学校給食摂取基準策定に関する調査研究者協力会議委員、日本人の食事摂取基準策定委員会委員(2005年版、2010年版、2015年版、2020年版)、滋賀県食の安全・安心審議会会長などを歴任。日本ビタミン学会、日本栄養・食糧学会などに所属。滋賀県立大学名誉教授。ビタミンB研究委員会委員長。